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現在のイラクを巡る政治・軍事情勢について(3月27日現在)  坂本均



(一)はじめに  反戦派の精確な軍事情勢把握の必要性

 僕らは一切の暴力、戦争に反対する。自衛の為のみに唯一暴力は許される、と考える。

21世紀は人類が非暴力を課題とする世紀であり、それが実現される世紀である。

 侵略戦争はその非暴力の最大の究極の否定対象である。

 米英が他国の行動に、その是非はともあれ、自分たちが気にくわないといった勝手な思いこみで、外部から暴力を発動し、侵入し、その国の権力を取り替えようとすることは許されない行動であると考える。

 27日、これまでの許すまじきアメリカの侵略戦争で犠牲になったイラク民衆、イラク兵士、命令に従って行動し犠牲になった米英兵士に哀悼の意を表します。

 とりわけ「誤爆」や劣化ウラン弾や電子(E)爆弾等によって全く何の科なく殺されていったイラク民衆、イラクの子供達に深く哀悼の意を表します。

 今展開される米、英のイラク侵略戦争は即時停止されるべきであり、日本政府は一切の戦争協力を即時停止すべきである。

  アメリカは「大量殺戮兵器を廃棄する」と称して、この戦争を開始した訳だが、彼ら侵略軍がやっている行為は正に「誤爆」「劣化ウラン弾」「電子爆弾」「バンカーバスター爆弾」「クラスター爆弾」等を使用する「大量殺戮」行為そのものではないか。この背理を米英は自覚すべきである。 

 さて今回は、米ーイラクの軍事的攻防について、反戦闘争を展開して行く上で反戦派がしっかりした、軍事情勢の精確な把握が必要になっている、と思われ、その為僕は反戦派の軍事情勢把握の立場、分析観点、分析内容の基本観点を示して置きたいと思う。  我々は無根拠な楽観主義は慎まなければならないが、アメリカ側の情報戦に取り込まれ、悲観主義に落ち込む必要は全くない。分析の中で反戦潮流の道理、闘いは十二分に意義を持っていることが確認されるであろう。

(二)戦局を決定する基本要素とは何か?その8点について

 戦争が開始され本日で7日目です。まだ緒戦と言えるかも知れないが、ある程度はこの戦争の推移を見通せる要素が出そろい始めている。これだけでもってこの戦争の全推移を見通しきる訳にはいかないが、可成りな程度見通すことは可能な段階に達したと思える。

 テレビでは江畑健介等「軍事評論家」と称する人々が「大活躍」しているが、情報を僕よりは多大に集めているが決して正しい分析、透徹力を駆使しているとは思えない。

 その原因はこの戦争の基本性格の認識に於いて正しい立場に立ちきっていないことにあるように思えるからである。

 この戦争の推移を決定するに当たって検討すべき要素、条件を挙げてみる。

 1,僕の最大の関心はフセイン政権への態度如何によらずイラク国民が国民的自覚を持ち、この侵略に怒り、身をもって国を守る意識を持っているか、否か。

  フセイン政権は程度問題だが、この意識を集約するだけの能力を持っているか否か、であった。言い換えれば、イラク民衆にとってこの戦争がアメリカのいう「解放戦争」なのか、「反侵略の自衛戦争」「祖国防衛の民衆戦争」なのか、ということである。

 民衆の帰趨がいずれか、と言うことである。民衆が祖国愛を持っているなら、そしてそれがフセイン政権以外に外敵と闘う指導部を現段階では、見いだせない以上はフセイン政権の指導を受け入れるのは、フセイン政権がよっぽどの反人民政権でない限り必然である。  この限りでフセイン政権がその指導部足りうるか、否かが今試されているのである。

 2,戦争は総力戦でもあるが、他面では極めて主体的、精神的要素のウエイト、指導部、指導者の才質の要素が作用する。この点で、イラク指導部がフセインその人自身を守り抜けるか否か、の問題も又戦争の帰趨を決する重要なファクターである。

 3、民衆の帰趨がある程度流動的である場合、情報、宣伝戦は決定的要素を占め、フセイン側がアメリカの情報戦に対抗できる力をもっているか。

 4,アメリカの軍事技術は圧倒的であるが、そのハイテク技術が「祖国の大地」を活かしたイラク民衆やフセイン政権の抵抗を圧倒できるか。

 5,アメリカはイラク民衆を「解放軍」として掌握できるか、これは補給、点の線、面への拡大が可能か否かの鍵である。それともこの補給線がずたずたに寸断されるか。

 6,持久性はいずれの側にあるか。アメリカ、世界の世論。経済のバックアップ能力、イラク側を応援するアラブ等の人的、経済的、政治的動向。

 7,南部戦線と北部戦線に戦力が分断されることは、極めてイラク側に不利であるがアメリカはトルコを懐柔しこれを基地にし、クルド族の結合、アメリカ、トルコ、クルドの共同戦線を実現しようとするが、それはできるか。


 8,湾岸戦争との決定的違い、アフガン戦線との違いは何か。

顔を真っ赤にして激論する塩見氏(お陀仏村にて)



(三)各8点の基本要素をどう捉えるか

 1について:   イラク民衆の愛国心は旺盛で、難民流出と反対に出稼ぎ民が家族と国を思って帰国しつつつある。それだけのフセイン政権の国民求心力はある。

フセイン政権の権力中核はアメリカの思惑とは違って健在で十分に機能しつつある。イラク民衆と政権の結合、紐帯力は存在している。

 2について:   フセインは自己の存在意義を十分に自覚し、自覚的に自己防衛の体制を造って来、それは強襲に遭っても崩されていない。バース党も民衆もその重大性を自覚している。

 3について:   アメリカに比べ弱く、テレビ局等を破壊されているが、すぐ復旧する力を持ち、今後地下放送、電波網を維持できるかは課題である。今のところ互角に近く渡りあっている。アメリカ側はイラク側報道通信網を徹底的に叩いている。

 この力の弱化に応じつつ、日本のテレビ界や通信情報網はこれまでの比較的反戦派傾向をもってニュースを報道していたが、このころ肝心の所をぼかしたり、伏せたりする報道統制を感ずる。

 4について:   ハイテク技術、物量は圧倒的にアメリカの側にある。しかしそれを凌がする崇高な愛国心、勇気と犠牲心がイラクの側にあり、この間の事態は空爆やミサイル攻撃に屈していない。又地理的環境、条件は圧倒的にイラク側にある。

 5について:   アメリカは「解放軍」と演出しようとしているが、全局的に見れば米軍は嫌われており、「侵略軍」視されていることが明白になりつつある。イラク民衆を味方に付けない限り「即決戦」はおろか「持久戦」も不可能である。

 6について:   アメリカの世論は大義なき戦争故に分裂し、国際帝国主義の間も分裂は拡大し、経済的不況を戦争景気で挽回することは難しくなりつつある。イラク側は長引けば長引くほど民衆の結束、毎日500人を超すモジャヘディン(アラブ国際義勇軍)が駆けつけているような人的資源を始めとするアラブの支援、国際世論故持久力は付いて行く。以上考えれば、アメリカの勝機はハイテクと物量を活かした「短期即決戦」以外になかったのではないか。

 7について:   短期決戦の挟撃作戦に於いてクルドの役割は極めて大きいがこれを取り込むべく独立、自決権を約束すれば、トルコ、イランを敵に回し、アメリカはトルコ、クルド、アメリカの共同戦線、つまり「北部戦線」を作ることに失敗している。アフガン戦線との大きな違いを見よ。

 8について:   湾岸戦争では「クウエート侵攻」のミスを衝かれ大義、国際世論を敵に回した。軍事的に侵攻戦、正規軍のタンク戦等正面戦を行うと言う戦略的間違いをやり、侵攻されて初めて体制を立て治している。

 今回はこれとは全く違い、国際世論を引きつけ、侵略者への「祖国防衛戦争」の大義があること。

 アフガンに於けるタリバン政権、アルカイダ等は政治・軍事上国際世論を引き寄せられず、内部に北部戦線、外部にパキスタンを取り込まれていた。このようなミスをフセイン政権は現在犯していない。

 以上が検討点である。こう見てくればイラク側の思想的理念的構えは十分であり、アメリカのハイテク、ミサイルに依拠した「死ぬことを恐れる」陣形に十分に闘える条件があること。但し生物兵器や核兵器を使ったりすれば形勢は直ちに逆転する危険もある。

 ここが留意すべきポイントである。

(四)米軍の先制攻撃・早期決戦戦略は破産した

 この一週間で明かになった点は、以下であろう。

1,民衆の反米意識は強く、今のところ米軍と結合した「反フセインの民衆蜂起」は起こりそうにない。

 アメリカはハイテクの兵器を利用し、制空権の確保を活かしての空爆を主として早期の決着を目指したが、それはフセイン政権とイラク民衆をたじろがせて居ず、アメリカの楽観主義的な「身を安全圏に置いた」「先制攻撃戦略」は破産しつつある。

 フセイン政権が断固たる戦闘決意を示していることによって、アメリカの心理的動揺作戦はもろくも一蹴されつつある。

   民衆はバスラ、ウルムカスルなどに典型なように抵抗体制を解いてない。

 バグダード民衆を始めとするイラク民衆は空爆、誤爆で悲惨な惨状を被るほどに逆にフセイン政権の周りに結集しつつある。

 出稼ぎで国外にあったイラク民衆は祖国に家族と国を思い続々帰国しつつある。「難民」「国外流出」の構図とは反対の現象が生まれつつある。

 アメリカのハイテク技術を目玉とする空爆、ミサイル、謀略的「奇襲」、情報戦、心理戦に於ける偽計を含んだフセイン政権の内部崩壊を狙った倒壊戦略は破綻している。

 つまり外側からの威圧による圧伏戦略はフセイン政権の断固たる抗戦体制に全く無効であったことを示している。最初の20〜23日頃までが華々しかっただけで、それも南部で軍事対決を避け、民衆を糾合出来ないまま北上し、補給線は延びきりその上、砂嵐である。

2,カルバラを中心とする砂嵐の中での3月25、26日の激戦でアメリカはイラク軍精鋭を撃破出来なかったようである。体と体、肉体と肉体がぶっつかりあう地上の遭遇戦で ーそこでこそ闘いの理念、思想の真価が問われるのだがーアメリカにイラク軍は、打ち破ることは出来なかったが打ち破られはしなかったのである。ナジリアでもそうだ。アメリカはなりふり構わぬ民間爆撃をやり、バグダード市民の虐殺もこの戦闘と呼応して行ったがバクダートの外環状防衛戦を抜けなかったのである。

 この未決着は大局で見ればバグダード侵攻を当面断たれた側面があり、この点で米軍側のカルバラ戦争での敗北と言って良い。

 又ナシリアでの橋を巡る激戦もイラク軍は退いていない。この攻防も環、決戦であるが ここでも退却していない。

 アパッチ等ヘリコプターは「ローテク」反撃で撃墜されたり、損害を受けたり、補給線を攻撃され、トラックの大量損壊、兵員の死傷等が生まれている。

3、26日から今日に掛けての報道は極めて曖昧だが「米軍は南方作戦に比重を移しつつある」を洩らし「苦戦」を報じている。その後の「米軍増派の決定」「トルコの米軍のペルシャ湾への移動」「ブッシュ、ブレアの急遽の設定」「ブッシュの戦争の長期戦の予測の発言」  そして決定的なのは「イラク軍の南下作戦」の報道である。これはイラク軍が反転攻勢に出たことを意味する。

 戦場は南方戦線に移動しつつあり、これはアメリカ軍の先制攻撃の短期決戦戦略の見事なまでの破産を意味する。 

北上した米軍は「今は何処が前線か分からなくなっている。」と言う。この言葉の意味することは、今や米軍が各個に寸断され、包囲され、「反包囲討伐」の危機を迎える可能性を示している 。

(五)長期戦へーーーイラク側の積極防御戦術の必要性とその実行

 米英の「先制攻撃戦略」「短期決戦戦略」としてあった初期の軍事作戦は破綻した。この過程でイラク民衆・フセイン政権の頑強さを米軍は確認することとなった。

 それゆえ、米軍は構えお直しを余儀なくされ、 さし当たって今後2〜3ヶ月を射程にしたバクダード攻防を環とする長期戦を設定せざるを得なくなった。

 イラク側から見れば持久戦略の第一段階をほぼ計画的に乗り切って来たと言うことである。総力対峙の段階に入っている。

 500万都市を巡るこのような長期対峙の戦闘史を僕は知らない。第二次世界大戦時のソ連対ナチスのスターリングラード攻防史はこの攻防の参考になるが、それでも質、規模、条件をことにしている。

 米軍は物量に依った空やミサイルによる執拗な疲弊化戦略は続くだろうが、容易に決戦戦術を採用するわけにはいかない。勝算なしの決戦は米軍は致命的なダメージを被るからである。これに堪えてイラク側が自給的にその損害を補鎮する経済、政治、軍事の再生産を確保して、各戦機に乗じ、バクダード外環状防衛戦から、或いは全国各地から積極的防御の攻勢陣形を堅持して、米英軍を逆に損耗、疲弊化状況に追い込むか、が戦局を当面決めて行くであろう。そしてイラク民衆は自らが主体となって自主的に民兵組織を強化し、それを実行している。

編集注:この分析は27日午前中、坂本氏が執筆したもので、28日、本日とこの種の判断は出て来始め、今日3/30日は花盛りです。侵攻停止、ラムズフェルドやパウエルの辞任問題にまで波及して居ます。尚25,26日の砂嵐の激闘については、ロシアのニュースだが「米兵500人が死亡した」と報じて居ます。さもあらん、です。